どーも、捌零式です。ハロにちわ〜。
今回は、古着好きの間で昔から囁かれてきた「BIG E の刻印と等級の話」について書いていこうと思います。
ネットや動画を見ていると、未だに
- A=優
- S=良
- B=不可
といった分類が語られています。 まるで Levi’s が正式にランク分けして出荷していたかのような断定も散見されます。
しかし実際は、この説には公式資料の裏付けが一切ありません。 今回はその理由を、専門家ぶらずに、でも深く噛み砕いて書いていきます。
第1章:Levi’s が「等級分け」をしていた根拠は存在しない
まず最初に言い切ってしまうと、 Levi’s が A・S・B の等級で商品を仕分けていたという事実は確認されていません。
以下のどれを調べても、そのような仕組みは出てこない:
- Levi’s のアーカイブ資料
- LVC(Levi’s Vintage Clothing)の開発資料
- 工場関係者のインタビュー
- ヴィンテージ研究者の文献
- 90年代にデッドストックを扱った古着業者の証言
BIG E に限らず、501 の製造過程に「等級制度」を示す文書はありません。 つまり、この話は公式情報ではなく、後年の市場で自然発生した誤解だと考えるのが妥当です。
第2章:では刻印は何なのか?正体は【内部管理記号】
BIG E のボタン裏やフライ部分に押される
A / S / V / K / E / W …
などのスタンプ(刻印)。 これは、最も有力な説として
工場・縫製ライン・担当者の識別番号
と考えられています。 これは Levi’s が当時、全米の複数工場で 501 を生産していたことに由来します。
例えば:
- 染色担当ラインの番号
- 縫製担当者の識別
- 検品担当エリアのコード
- 工場ごとの内部規則
これらのどこかに紐づく管理記号だったという説が最も濃厚です。
つまり、刻印が製品の良し悪しを示すためのものではない。
ここが誤解の分岐点になります。
第3章:ではなぜ A =優、B=不可 という噂が生まれたのか?
これには大きく3つ理由があります。 ここを知ると、誤解がどう育っていったかが見えてきます。
① 日本の古着市場が等級文化に親和性が高かった
日本は A級・B級・規格外…といった分類に馴染みのある文化です。 野菜、魚、工業製品、古本、骨董品…なんでもランク付けする傾向がある。
そこにアルファベット刻印が来れば、 「Aの方が良さそう」 と思ってしまうのは自然です。
② 個体差の偶然の一致が「法則」に見えてしまった
BIG E は本当にバラバラです。
- 染料ロットの揺れ
- 織り密度の違い
- 縫製者の熟練度
- 工場ごとの設備
その結果、たまたま A刻印のパンツに良個体が多かったり、 B刻印に荒いものが多かったりした時期があった。
これを一部のバイヤーが「傾向」として語り始めたことで、 やがて「等級」という言葉が独り歩きしていったと考えられます。
③ 2000年代の古着バブルで語りが加速した
Bの個体が荒っぽくて雰囲気が良い、 Aは縫製が整う傾向がある、 Vはややクセがある、 などなど。
こうした経験則は面白いし、現場の生きた情報でもあります。 しかし、これが公式の等級制度にすり替わってしまった。
つまり、真実はもっとゆるい。
刻印と品質は無関係ではないが、因果関係があるわけでもないというのが妥当かと思います。
第4章:実物を触ると見える個体差の本質とは
長年デニムを触っていると、個体差の理由は刻印ではなく、下記のような製造プロセスの揺れだと思わされます。
- 染料の濃度が均一でない
- シャトル織機の調整差
- 裁断者のスキル差
- 縫製担当者の技術差
- 生地ロールごとのテンション差
つまり、BIG E の個体差は工業製品の揺れから生まれているのであり、 刻印はそれを説明する指標ではないということ。
ここを理解すると、刻印議論はもっと健全に楽しめるようになります。
第5章:刻印別の語られがちな特徴とは(断言ではなく、あくまで傾向)
これは完全にマニアたちの観察の遊びとして読んでほしいです。
A刻印
- 縫製が比較的整っている個体が多い印象
- 当たりの個体を引く確率が高いと語られがち
B刻印
- 荒い個体・ねじれが強い個体が散見される
- 雰囲気系として好む人も多い
S刻印
- ミドルバランスと語られる
- 特に強い特徴はなく、安定した個体が多い
V/K/W/E刻印など
- 工場の違いが出やすいと言われる
- シルエットにクセがある個体も存在
しかしこれは、統計ではなく趣味の世界の話。 左脳で信じるものではなく、右脳で楽しむものです。
第6章:なぜ誤解が広まり続けるのか?(文化背景)
BIG E のようなヴィンテージは、情報の曖昧さが残るほうが文化として面白いです。 その曖昧さが、語り手によって時代ごとに形を変えていく。
そこに SNS の断片的な情報が加われば、 誤解はあっという間に定説ぽくなってしまいます。
だけど、それは悪いことだとは思いません。
ヴィンテージ文化は語り継ぎによって育つものだと思います。
大事なのは、断言しすぎないこと、 そして、その曖昧ささえ楽しむことではないでしょうか。
第7章:捌零式的結論
- Levi’s に等級制度の存在は確認されていない
- 刻印は内部管理記号であり品質ランクではない
- 刻印と品質の関連性は偶然の一致
- 刻印を知ることは楽しいが、盲信は不要
- 本質は個体そのものを愛でる気持ち
つまり、刻印はロマンであり、 解析は遊びなんです。
そしてその遊びこそが、ヴィンテージデニムの醍醐味。
締め:誤解を解くことは、デニムをもっと深く楽しむための一歩
誤情報を否定するためではなく、 より自由に楽しむために、刻印の正しい理解が必要だと思っています。
刻印は等級ではない。
でも刻印を見るのは楽しい。 それでいいと思います。
次回は、年代別の個体差や 66 期のディテール変遷について書いていこうと思います。 それではまた、捌零式でした。

