どーも、捌零式です。ハロにちわ〜。
ここまでXX、BIG E、66前期、66後期と年代軸で501を追いかけてきましたが、今回の2.5章ではあえてその縦の流れから少し外れます。 テーマはタイプ分類と個体差。 つまり、同じ年代の501同士でも全然違って見える理由、その違いを整理しようとした人たちの努力、そしてその魅力について語ります。
ヴィンテージ501を追っていると必ずぶつかる疑問があります。 同じ年代なのに、なんでこんなに違うのか? これに悩むのは初心者だけではありません。長く古着を触っている人でも、ふとした個体に出会って困惑することがあります。
その理由を理解するために必要なのが、この章です。
なぜタイプ分けが必要だったのか
501の歴史は約150年にも及び、その間に数え切れないほどの仕様変更が行われてきました。 ただし、それは現代のプロダクト開発のように綿密に記録されたものではなく、当時のアメリカの工場がとりあえず作る形で進めていた時代の話です。
そのため、例えばこんな現象が起こります。
- 同じ年代なのにステッチが違う
- BIG E同士でも縫製のテンションが違う
- 耳の幅が違う
- ポケットの形が微妙にズレている
- 生地のムラ感が全然違う
つまり、年代という枠だけでは説明しきれないズレが多すぎるのです。
そこで有志の研究者たちが生み出したのが、BIG Eを中心としたタイプ分類という考え方です。
個体差が生まれる理由:工場、縫製、生地ロットの三つ巴
タイプ分類を理解する前に、まず個体差が何によって生まれるのかを押さえましょう。これは難しい話ではなく、単純に量産ラインの問題です。
■ 工場が違うと仕様が違う
Levi’sは長い歴史の中で複数の工場を運営していました。バレンシア、エルパソをはじめ、工場によって設備も癖も違うため、
- 縫製のテンション
- 糸の色
- 縫い目の幅
- ポケットの角度
こういった要素に違いが生まれます。この差がBIG Eにおけるタイプ分類の土台になります。
■ 生地ロットの違い
綿の産地、糸の撚り、染めの回数、そして織機の調整。これらが微妙に異なるため、
- ムラ感の強さ
- 縦落ちの出方
- 色の濃淡
などが個体ごとに違ってきます。
■ 縫製ラインの人的要因
当時の縫製ラインは職人による作業であり、ミリ単位のズレがそのまま製品に反映されました。これがヴィンテージの魅力でもあります。例えば内股部分がわかりやすく、ミシン目が極端に詰まっていたり広がっていたり、こういった人の手ならではの乱れが魅力になっています。
こうした背景のもと、民間の研究者たちがBIG Eの仕様を観察し、それらを体系化しようとした結果生まれたのが、次に紹介するBIG Eタイプ分類です。
BIG Eタイプ分類とは何か
BIG Eのタイプ分類は、公式発表ではありません。あくまで有志の研究者たちが、数多くの個体を観察し、傾向ごとにグループ化した民間分類です。
代表的なものとして、以下のような分類があります。
- Aタイプ
- Sタイプ
- Eタイプ
- Kタイプ
- Wタイプ
- Vタイプ
これらはBIG Eの特徴を理解するための指標であり、パズルのピースのようなものです。では、それぞれを簡単に見ていきましょう。
Aタイプ:アーキュエイトの形に特徴がある個体
Aタイプはバックポケットのアーキュエイトステッチの形に癖があり、角度が鋭かったり、均一でないものが多い。これは工場や縫い手の個性が強く反映された結果と考えられます。
色落ちに特徴があるというより、縫製の表情でタイプを感じる個体です。
Sタイプ:ステッチ仕様が独特な個体
Sタイプは補強ステッチの入り方、縫製の強弱、バータックの形状など、ステッチから特徴を読み取るタイプです。ステッチ萌えの人にとってはたまらない個体。
Eタイプ:生地のムラ感が強い個体
Eタイプは生地そのものに表情があり、ムラ糸の強さやザラつきが顕著です。現代の復刻ブランドがこぞって狙う縦落ちの源流として人気のタイプ。
Kタイプ:工場差に由来するとされる個体
Kタイプは特定工場で見られる特徴をもとに分類されるケース。縫製テンション、糸色、ポケット形状などに微妙な差が表れる。
ただし、工場ごとの記録が残っていないため、あくまで観察による推測でしかありません。この曖昧さがまた面白い部分でもあります。
Wタイプ:ウエスト位置やシルエットの癖に注目した個体
Wタイプはウエストの縫製位置、カーブ具合、シルエットへの影響が見られる個体。66前期へ向かうシルエット変化の萌芽が見えることも。
Vタイプ:Vステッチが残る個体
VタイプはBIG E前期によく見られる特徴で、トップボタンの両脇にV字のステッチが残るもの。これはXXから続く仕様の名残であり、魅力の象徴でもあります。
Vステッチは66前期へ移る頃には消えてしまうため、BIG Eの中でも特に人気が高いディテールです。
タイプ分類が生まれた背景
BIG Eのタイプ分類は、なぜここまで細かくなったのか。それは資料が残っていないからに尽きます。
当時のアメリカ工場は、生産効率を上げることを最優先しており、仕様変更を細かく記録する文化がありませんでした。そのため、今になって調べようとしても情報がない。
そこで、現存する個体を見て、研究者たちが特徴を分類し、整理し始めたのです。
だから、タイプ分類は絶対的な真実ではありません。 あくまで観察による仮説なのです。
なぜタイプ論は魅力的なのか
501は量産品です。しかし、個体差が大きい。 つまり、量産品でありながら一点物という矛盾を抱えています。
この矛盾こそが魅力。
同じBIG Eでも、落ち方も縫製も全く違う。 その違いを発見する楽しさ、分類する知的好奇心、偶然の産物。
だからタイプ論は終わりがない。 沼といわれるのは、この終わりのなさゆえです。
66前期・後期への伏線としてのBIG Eタイプ分類
BIG Eの個体差は、66前期で徐々に整理され、66後期で工業化が完了していきます。
例えば……
- Vステッチが消える
- 縫製テンションが均一化される
- ポケット形状が固定化される
- 生地のムラ感が抑えられていく
つまり、BIG Eのタイプ論は、なぜ66が標準化の象徴になったのかを理解するための重要な伏線なのです。
捌零式としてのスタンス
最後に、タイプ分類についての私の考えを述べておきます。
タイプ論は面白いし、知識としても価値があります。けれど、詳しい人はもっと詳しい。 私の記事はあくまでも、これからヴィンテージを楽しみたい人に向けた視点の提供です。
正解を求めるより、楽しむための足がかりになれば十分。 タイプを覚えることが目的ではありません。
ただ、BIG Eの個体差が生まれる背景、それを整理しようとしてきた人たちの努力、そして66へ向かう変化の流れを理解すれば、ヴィンテージ501はもっと面白くなる。
それが今回の章の意図であり、伝えたかったことです。
次章からは再び縦の歴史に戻り、さらにディテールを掘り下げていきます。 もう少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。

